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ダンスステップ・イン・ワンダーランド



眠りから覚めるとワガハイは夜のただ中にいた。
瞬きを繰り返す。
開けても閉じても、目には何も映らない。
真っ暗で真っ黒の世界。
ひとかけらの光もない、圧倒的な闇。

冒険者が迷い込むのは夜と相場が決まっている。
しかしこれほどまでに夜の深奥に来たのは初めてである。

「ナルホド、これが世に聞く真夜中とやらか」
ナルホドの部分で、ワガハイの額がぴかりと光った。
「ナルホド」
 ぴかり。
ほう、そういう仕組みか。
夜は特殊なルールを持つ世界である。
異なる世界のルールを把握することが冒険者の基本。
「ナルホド、ナルホド」
 ぴかり、ぴかり。
ナルホドの小さな灯を頼りに、ワガハイは歩き出す。
地面は細かい砂で構成されているらしい。
  ぱろん、ぽろん、ちろん
足を踏み出す度に、その砂が奇妙な音を響かせる。
「ナルホド、ここでは足音が音楽になるのか」
 ぴかり。
  ぱろんぱろん、ぽろんちろん
「ナルホド、ナルホド」
 ぴかり、ぴかり。
  ぱろんぽろんぽろん、ちろんぱろんぱるん
「ナルホド、これは中々ユカイ」
 ぴかり。
  ちろんちろんぽろん、ぽろんぽるんぽれん

深い深い夜の真ん中、奇妙な足音とともにワガハイは歩みを進める。

ふと遠くにチカチカとした小さな光を感じる。
視界の隅、目覚めて初めての光。
そちらに向けてワガハイは歩を進める。
しかし光は近づけど近づけど小さいまま。
逃げてゆく、小さなキラキラ。
「ナルホド、ワガハイが目指していたのはあそこに違いない」
 ぴかり。
ワガハイはついに思い出す。
冒険者の目的は前人未到の地にたどり着くこと。
ワガハイが目指していたのは星の砂漠。
それはザクザク輝く星の散らばる砂漠。
近づくほどに遠ざかる、幻の砂漠。
されどワガハイは第一級の冒険者。
なれば遠ざかるよりも速く駆け抜けるのみ。
ワガハイはスピードを上げて駆け出す。
  ぱろろろろん、ぽろろろろろろん

リズムの外れた足音を引きつれ、暗闇を疾走する冒険者。
それをあざ笑うような速さで遠ざかる、小さな小さな光を目指して。

「やあ、ずいぶん珍妙な足音楽だなあ」
  ちっちった、たらりりらった
ワガハイに話しかける男が一人。
軽やかにステップを踏みながらワガハイに並びかける。
全身、黒のスーツ。
黒い帽子に唯一光る、星型の模様が眩しい。
「話しかけないで下さいな、見てのとおりワガハイはとても急いでいるのです」
  ぽろろろろろるん、ぷろろろろるん
「急がば廻れと云うでしょう、どうです、僕の話を少し聞きませんか」
  たりらった、らるらりらった
男は華麗なステップでワガハイを追い越し回りこむ。
ワガハイの全速力に追いつき、追い越すとは。
男の端正な顔には静かな笑みまで浮かんでいる。
何か秘密があるのかもしれない。
世界のルールを把握せずに冒険はできない。
ワガハイは足を止め、男に向かい合う。

「ナルホド、話を聞きましょう」
 ぴかり。
「ほう、あなたは光を作ることが出来るのですね」
「これっぽっちの光では。ワガハイは星の砂漠を目指す冒険者なのです」
「ほう、ではやっぱり僕の話を聞いて正解だ。何を隠そう、僕はその星の砂漠からやって来たのです。この星こそがその証拠」
男の帽子の星模様が、チカチカと光る。
ワガハイはそこから目を離せない。
「でもあなたの足音楽じゃ、星の砂漠にはとても辿り着けない。離れていくばかりですよ」
「足音楽とは、この足音のことですか」
  ぽろん。
「いかにも。夜では、足音楽のダンスステップのみがものを云う」
「ナルホド。確かに貴方は素晴らしく華麗なステップを踏む」
 ぴかり。
「ええ。星の砂漠へは、このステップが必要不可欠」
「少し見ていてください」
軽く帽子を下げてそう言うと、男は再び華麗なダンスを始める。
軽快にして力強く、美しくも儚いステップ。
  たりらった、たりらりらった、たりらりらったったったった
ステップが地面を離れ、男は宙に浮く。
ワガハイは驚きを隠せない。
「これはどうしたことだ」
その呟きに対し、空中から声が降ってくる。
「これが星の砂漠へ辿り着く道。宙を踏むこと。踏み続けること」
男はどんどん上昇し、足音楽も遠くなる。
宙を踏む、男の華麗なステップ。
男が踏んだ場所は一瞬キラッと光り、またすぐ闇に戻る。
  たらったったった、たらったったった
 キラ、キラ、キラ、キラ、キラ。
最後にキラリと小さく光り、男は星の砂漠の光にまぎれてしまった。
不覚にもワガハイは男のステップに見惚れていた。

辺りは再び闇に包まれる。
遠く、遠くに星の砂漠の光だけが見える。
それを目指しもう一度歩き出したワガハイは、
  ぽろん、ちろん
自らの足音楽のセンスのなさに改めて気づく。
この世界ではワガハイの培った超人的な脚力も何の意味もなさない。
地ではない、宙の道を行かねば星の砂漠へは辿り着けないのだ。
夜の中、ワガハイは木偶の坊だった。
それでも歩みを止めるわけにはいかない。
先ほどの男のダンスをイメージし、ぎこちなくステップを踏む。
  ぽっぽっぽ、ぽろちららりっぽ
まったく、うまくいかないものだ。
しかしワガハイにも冒険者の誇りがある。
どんなに高い壁でも止まらず避けず諦めず、これを越えてゆくもの。
それが冒険者の定義にして最低条件。
ぎこちなくてもステップを踏むこと。
自らのステップを踏み続けること。
それだけが道を拓く。
ここまで来たのだ。
目指す星の砂漠は、もう目前。
辿り着くまでずっとずっと、ワガハイはワガハイのステップを踏み続けよう。

  ぽろっぽ、ぱろろっぽ、ちっちっぽ、ぽっぽっぽるっぴ
  ぴりっぱ、ぴりりっぱ、ぴりっぱぽっぽ、ぱるっぷっぷっぽ
  ぷるっる、ぴろっぽ、ぱりぽりろっぽ、ぽろっぽぽろっぽぽろっぽっぽ
  ぽろろっぽ、ぽるるるるった、りったるったらった、らったったった
  ぷらたったった、ぽらったったった、ぽった、るった、ろったったった
  ぴりりりりった、ぽるるるるった、りらったったった、るりったったったった

 キラッ